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最高裁判所第二小法廷 平成11年(許)23号 決定

主文

原決定を破棄し、本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

抗告代理人花村聡、同小比賀正義の抗告理由について

一  本件は、原々決定別紙物件目録記載の建物に根抵当権の設定を受けた相手方が、物上代位権の行使として、右建物を賃借してこれを他に転貸している抗告人の転借人に対する転貸賃料債権につき差押命令(原々決定)を得たところ、抗告人が、右差押命令に対して執行抗告をし、抗告棄却決定に対して更に抗告をした事件である。記録によると、本件の事実関係は、次のとおりである。

1  相手方は、昭和六三年六月二一日、勝呂享司(以下「勝呂」という。)との間で、同人の株式会社大和銀行に対する金銭消費貸借契約に基づく債務について保証委託契約を締結し、同年一〇月二一日、勝呂及び勝呂裕紀子(以下、右両名を併せて「勝呂ら」という。)との間で、相手方の勝呂に対する求償債権等を被担保債権として、勝呂ら共有の本件建物に極度額を一億九八〇〇万円とする根抵当権を設定することを合意し、同日、その旨の登記を経由した。

2  本件建物は、昭和六三年九月二六日新築の三階建店舗兼共同住宅用建物である。

3  相手方は、平成九年一〇月二八日、右保証委託契約に基づき、勝呂の大和銀行に対する債務七二一六万二八一二円を弁済し、勝呂に対して同額の求償債権を取得した。

4  高山光男は、右同日、勝呂らから本件建物を買い受け(同日三〇日所有権移転登記)、同月三一日、抗告人に本件建物を賃貸し(同年一一月一七日賃借権設定仮登記)、抗告人は、第三債務者らに対し、本件建物の部屋のうち七室を転貸している。

5  相手方は、平成一〇年九月一〇日、横浜地方裁判所川崎支部に、本件根抵当権に基づく物上代位権の行使として、抗告人の第三債務者らに対する転貸賃料債権について差押命令を申し立て、同裁判所は、同月一六日、本件債権差押命令を発した。

6  抗告人は、本件債権差押命令に対し、執行抗告をした。

二  原審は、抵当不動産の賃貸により抵当権設定者が取得する賃料債権に対しては、民法三七二条によって準用される同法三〇四条一項により、抵当権者は物上代位権を行使することができるところ、同項に規定する「債務者」には、抵当権の設定者及び抵当不動産の第三取得者(以下、両者を併せて「所有者」という。)のほか、抵当権設定後に抵当不動産を賃借した者も含まれると解すべきであるから、抵当権者は、右の賃借人が取得すべき抵当不動産の転貸賃料債権に対しても、物上代位権を行使することができるとの理由により、本件差押命令を相当として、抗告人の執行抗告を棄却した。

三  しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

民法三七二条によって抵当権に準用される同法三〇四条一項に規定する「債務者」には、原則として、抵当不動産の賃借人(転貸人)は含まれないものと解すべきである。けだし、所有者は被担保債権の履行について抵当不動産をもって物的責任を負担するものであるのに対し、抵当不動産の賃借人は、このような責任を負担するものではなく、自己に属する債権を被担保債権の弁済に供されるべき立場にはないからである。同項の文言に照らしても、これを「債務者」に含めることはできない。また、転貸賃料債権を物上代位の目的とすることができるとすると、正常な取引により成立した抵当不動産の転貸借関係における賃借人(転貸人)の利益を不当に害することにもなる。もっとも、所有者の取得すべき賃料を減少させ、又は抵当権の行使を妨げるために、法人格を濫用し、又は賃貸借を仮装した上で、転貸借関係を作出したものであるなど、抵当不動産の賃借人を所有者と同視することを相当とする場合には、その賃借人が取得すべき転貸賃料債権に対して抵当権に基づく物上代位権を行使することを許すべきものである。

以上のとおり、抵当権者は、抵当不動産の賃借人を所有者と同視することを相当とする場合を除き、右賃借人が取得すべき転貸賃料債権について物上代位権を行使することができないと解すべきであり、これと異なる原審の判断には、原決定に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原決定は破棄を免れない。そして、抗告人が本件建物の所有者と同視することを相当とする者であるかどうかについて更に審理を遂げさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。よって、裁判官全員一致の意見1で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官河合伸一 裁判官福田博 裁判官北川弘治 裁判官亀山継夫 裁判官梶谷玄)

抗告代理人花村聡、同小比賀正義の抗告理由

1 原決定は、抵当権者は、抵当権設定者が目的物を第三者に賃貸することによって賃料債権を取得した場合には、民法三〇四条一項を準用する同法三七二条により賃料債権について抵当権を行使することができるところ、同法三〇四条一項の債務者には抵当不動産を抵当権設定の後に賃借した者も含まれるから、転貸料債権に対しても抵当権に基づく物上代位が及ぶとして、抗告を棄却している。

2 しかし、転貸料債権に対する抵当権に基づく物上代位については最高裁判所の判決がなく、かつ原決定は、「転貸借賃料については抵当権の効力は及ばず、これについて物上代位権を行使することはできない」とした大阪高裁平成七年五月二九日決定(大阪高裁平成五年(ラ)第一八三号:判例時報第一五五一号八二頁)と明確に相反するから、抗告を許可されたく、申し立てる。

3 原決定の引用する最高裁判所平成元年一〇月二七日判決は、「抵当権者は、民法三〇四条一項を準用する同法三七二条に基づいて、抵当権設定者が抵当不動産を取得する賃料債権につき抵当権を行使することができる」と判示している。しかし、最高裁判所の右判決は、賃料債権についての物上代位を認めるものではあるが、転貸料債権について言及したものではない。

4 民法三〇四条は、物上代位の目的物について「賃貸…ニ因リテ債務者カ受クヘキ金銭」と規定しているところ、同法三七二条による準用にあたり「債務者」を抵当権設定者、抵当不動産の第三取得者など当該不動産の所有者と読み替えることにより、賃料債権についての物上代位が認められることになる。

5 たしかに、目的物そのもののみならずその交換価値の実現について抵当権の効力を及ぼそうとする物上代位制度の趣旨からすれば、抵当権設定者の取得する賃料債権は、抵当不動産の交換価値のなし崩し的実現にあたるとみることができるから、それに対する物上代位を認めることは、制度の趣旨に反するものではなく、だからこそ前記の最高裁判決も賃料債権についての抵当権に基づく物上代位を認めたものである。

6 しかし、所有者からの賃借人はあくまで独自の人格として独自の計算のもとで抵当不動産を転貸し、転貸賃料を取得しているのである。このような転貸賃料の性質から考えると、これを抵当不動産の価値のなし崩し的実現と見ることは単なる比喩としても無理であるし、目的物そのもののみならずその交換価値の実現について抵当権の効力を及ぼそうとする物上代位制度の本来の趣旨を逸脱するものである。転貸賃料への物上代位までも認めるとすれば、抵当権者による賃料債権、転貸賃料債権の二重取りを許すことになるが、現実には抵当不動産の価値が二度にわたってなし崩し的に実現しているはずもなく、抵当権にそのような無から有を生む錬金術的効力を認める理由もない。

7 また、民法三〇四条一項は物上代位の目的につき「賃貸…ニ因リテ債務者カ受クヘキ金銭」と規定しているが、抵当物件の所有者である抵当権設定者や抵当不動産の第三取得者を、同項の「債務者」と読み替えることにより、賃料に対する物上代位が認められるとしても、所有者からの賃借人までも「債務者」にあたると解釈することは、民法の文理を無視するものである。

8 したがって、原判決の引用する前記最高裁判決が、転貸賃料債権に対する物上代位までも認容する趣旨と解釈することはできない。前記大阪高裁決定も、同じ最高裁判決を引用した上で、転貸賃料債権に対しては物上位権を行使することはできないとしている。なお、前記大阪高裁決定も、本件と同じく抵当権設定後の転貸に関する事案である(判例時報第一五五一号八四頁別紙執行抗告状「抗告の理由」八項)。

9 してみれば、転貸賃料債権に対する物上代位の可否についてはいまだ最高裁判所の判例がないというべきであり、しかも原決定は転貸賃料債権に対して物上代位権を行使することはできないとした前記大阪高裁決定と相反することが明らかであるから、民事執行法二〇条の準用する民事訴訟法三三七条二項の規定に基づき、執行抗告を許可されたく申し立てる。

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